私たちの身体の全細胞の働きを調整しているのは、自律神経です。
自律神経は私たちの活動状況に応じて、内臓の働きを調整し、内分泌系、神経系、免疫系と協調して身体全体の機能を保っています。
脳の指令を受けず、独立して働くことから「自律」神経と呼ばれていて、意識しなくても身体を自動的にコントロールしてくれています。
自律神経には、「交感神経」と「副交感神経」があるのは、周知の通りですね。
しかし、自律神経の働きと、ご自身の心と身体に生じる様々な症状との関連性や、病気の成り立ちについて、十分に理解できていないことも多いかと思います。
身体を調整している自律神経の働きが分かると、心と身体に生じる症状の意味や、原因が分かるようになります。一つ一つの症状に振り回されるのではなく、心と身体、全体から症状を捉えられるようになります。
そうすると、心と身体が発するメッセージを上手く受け取れるようになり、自分の体調を把握して、健康を維持することができるようになります。
病気は、ストレスによって自律神経の働きが乱れて、身体の調整力が限界を超え、自然治癒力が追い付かなくなってしまった状態です。
症状や病気の説明は、今、情報を探せばいくらでも出てきます。
しかし、本当の原因や対処方法は、その人の置かれた環境や、生活スタイル、生き方、考え方を抜きにして見つけることはできません。
なぜならば、自律神経はその人の生活や、活動状況に応じて働いているものだからです。
真の原因と対処法は、ご本人と、身体にしか分からないことなのです。
病気を寄せ付けない、病気になったとしても自分自身で回復できるように、自律神経の働きを知って、心と身体からのメッセージを受け取り、体調を整えていくことが益々これからの時代に必要になっていると思います。
それには知識だけでなく、人間が元々もっている身体の感覚、感性を取り戻す必要があります。
人生100年と言われる今の時代。いつまでも元気に健康を維持できるよう、自律神経のバランスを整えていきましょう。
では順に自律神経の働きについて見ていきたいと思います。
1、交感神経と副交感神経
2、自律神経の神経伝達物質と心・感情
3、自律神経と免疫
4、自律神経の働きを乱すストレス
5、自律神経のバランスを整える
自律神経には2つの働きの違う神経が、シーソーのように拮抗して、バランスを保っています。この2つの神経がバランスよく働いているときに、私たちは調子がよく、健康でいられます。しかし、ストレスによって自律神経の働きが過剰になり、バランスが乱れると、身体の調整が上手くできなくなり、体調が崩れていきます。
自律神経のうちの「交感神経」は活動する時に働く神経です。
昼間の活動時や、運動をしている時に優位となります。
消化管の働きを抑制し、消化管や皮膚の血管を収縮させて血液を絞ります。そして心臓の拍動を高めて血圧を上げ、活動に使われる器官(脳や筋肉)に血液を送ります。
このように交感神経は目の前の活動に向かうために、必要なエネルギーを作って送り出す働きを調整します。
活動に必要のない器官や、免疫の働きを抑制し、効率よくエネルギーを廻して、活動に集中させる体制を整えてくれます。
一方、「副交感神経」は、夜間の休息時や、食事の時に優位になる神経です。
心臓の拍動を緩やかにして、血管を拡張し、血流を促します。心身がリラックスモードになるとともに、血流の増加と免疫の働きによって昼間の活動で傷ついた組織の修復も促進されます。
また細胞の分泌や排泄を促すので、消化液の分泌や排泄が促進されます。
このように身体を休息させて、活動に向かえるよう、エネルギーを蓄えます。
この2つの神経がバランス良く働いているとき、活動と休息が上手く循環して、健康を保つことができます。
しかし、強いストレスや、長期間に渡るストレスを受け続けると、自律神経のバランスが乱れて体調を崩します。
自律神経は全身の細胞の働きを調整する際に、働きの異なる神経伝達物質を分泌します。
交感神経から刺激物として副腎皮質から「アドレナリン」が分泌されます。
また交感神経末端から「ノルアドレナリン」が分泌されます。
どちらも「緊張、興奮」作用があります。
副交感神経からは「アセチルコリン」が分泌されます。
こちらは「休息、リラックス」作用があります。
アドレナリンが過剰に分泌されるような交感神経過剰な状態は、身体を緊張、興奮させ、不眠や筋肉の緊張を生じさせると共に、脳の神経伝達物質とも相まって、怒りや不安、焦燥感を生じさせます。
アセチルコリンが過剰に分泌される、副交感神経過剰な状態では、身体は動きづらくなり、過眠や朝起きられないなど倦怠感が生じます。こちらも脳の神経伝達物質と相まって、無気力や落ち込み、悲哀を生じさせます。
このように、自律神経は全身の細胞を調整するだけでなく、私たちの心、感情の働きにもかかわっています。
自律神経は内臓の働きを調整し、心や感情にも影響するだけでなく、身体の免疫にも携わっています。
血液中には赤血球、白血球、血小板などの血球細胞があり、自己防衛を司っている白血球の働きも自律神経が調整しています。
白血球には顆粒球、リンパ球、マクロファージ、マスト細胞などがあり、それぞれ役割を分担して私たちの身体を守ってくれています。
白血球中の約54~60%を占めるのが「顆粒球」です。
顆粒球には好酸球、好中球、好塩基球(マスト細胞)があり、約90%は好中球です。
顆粒球は真菌や細菌、ウィルスに感染した細胞や、古くなって死んだ自己細胞など、サイズの大きな異物を食べて処理します。
顆粒球は寿命が2~3日と短く、役目を終えると組織の粘膜にたどり着き、活性酸素を放出しながら死んでいきます。
マスト細胞はハウスダストなどのアレルゲンを処理するときだけでなく、外傷や感染症によってできた体内の傷の修復にも重要な働きをしています。
白血球の中で次に多いのは、「リンパ球」です。白血球中の約35~40%ほどを占めます。リンパ球にはNK細胞、NKT細胞、B細胞、T細胞などがあり、ウィルスなど微細な異物やがん細胞を攻撃します。
その他にはマクロファージなどがあり、白血球中に約5%ほどあります。
マクロファージは血液中だけでなく、全身に分布していて、サイズの大きな異物や、細胞から出た老廃物を食べて掃除しています。マクロファージが異物を捕まえると、その情報をリンパ球や顆粒球に知らせます。
これらの免疫細胞は、自律神経が働きを支配しています。
先ほど、自律神経が分泌する神経伝達物質を見てきました。
この神経伝達物質が結合して、作用するレセプター(受容体)が白血球の細胞膜上にあります。
顆粒球にはアドレナリンのレセプター、リンパ球にはアセチルコリンのレセプター、マスト細胞にはアドレナリンとアセチルコリン両方のレセプターがあります。
また、リンパ球のNK細胞にもアドレナリン、アセチルコリンの両方のレセプターがあります。
交感神経が働くと、アドレナリンを分泌して、顆粒球の数を増やして活性化させ、リンパ球とマスト細胞の働きを抑制します。(リンパ球のNK細胞の数はアドレナリンによって増えます。)
副交感神経が働くと、アセチルコリンが分泌されて、リンパ球、マスト細胞が活性化されます。
この自律神経による免疫細胞の調整は、生物が安全に暮らす上で、大変巧妙に作られたシステムです。
交感神経は、日中私たちが活動しているときに働く神経でした。
人間が大昔狩りをして獲物を捕らえたり、敵から身を守る時や、野山に分け入り、果物や野草などを採集する時には傷を負いやすく、細菌が体内に侵入する機会が多くありました。
そこで、活動中にはサイズの大きい細菌を処理する顆粒球を増やしておくようにしました。
一方、夜間休息している時には、日中の活動で壊れた細胞や、古くなった細胞、ウィルスに感染した細胞やがん細胞を処理しました。
また、食事をとると、食べ物の中のウィルスや、消化酵素で分解された異種タンパク質が口から消化管に入ってきます。それらを処理するため、リンパ球やマスト細胞が働くようにしました。
こうして、自律神経は活動と休息に応じて免疫を支配し、昼夜私たちの身体を守ってくれています。
そころが、強いストレスや、長期間に渡るストレスによって自律神経の働きが過剰になり、バランスが乱れると、免疫の働きが適応能力を超えてしまいます。
顆粒球が過剰になると、活性酸素によって粘膜などの組織が傷つきます。
また、交感神経の過剰興奮から、反動で副交感神経反射が起こると、抑制されていたリンパ球が一気に活性化します。
その結果、様々な症状が出現してきます。
自律神経の働きは、様々なストレスによって乱れます。
・長時間労働、介護、育児の負担(過剰なプレッシャーを含む)
・心の悩み、葛藤
・喪失体験(死別、離婚、失業、転職、昇進、子供の自立など)
・生活リズムの乱れ(睡眠不足、夜更かし、昼夜逆転など)
・運動不足
・休息が取れない
・食生活の偏り
・身体の冷やしすぎ(冷たいものを飲みすぎる、薄着、冷房、湯船につからない)
・環境要因(過剰な冷暖房、身体を歪める作業環境など)
・電磁波
・農薬、化学物質、環境ホルモン
・薬の長期使用
ストレスは自律神経のバランスを大きく乱します。
元々自律神経は私たちの身体を、置かれた環境や活動状況に適応させるために働いていますので、ある程度のストレスがあっても身体を適応させることができます。
適度なストレスは交感神経を刺激して、全身を活性化し、活動モードにさせる原動力となります。しかし、ストレスが強すぎたり、長期間に渡ると、身体の適応能力を超えて交感神経の働きが過剰になり、緊張状態が続きます。
交感神経の過剰緊張が続くと、副交感神経が働きずらくなり、身体を休息させ、回復させることができなくなっていきます。
症状や、病気の多くは交感神経の過剰な緊張から生じます。
交感神経の興奮状態が続くと、顆粒球の活性酸素放出による組織損傷や化膿性疾患、アドレナリンの作用による血流障害(虚血)、排泄、分泌機能の低下、不眠、拒食、知覚鈍磨、感覚異常、心身の緊張と興奮状態に陥り、様々な症状が生じてきます。
その状態から身体は何とかバランスを取り戻そうとして、副交感神経反射が起こります。
また、副交感神経は交感神経の過剰興奮からの反射だけではなく、ストレスのなさすぎる生活や環境でも優位になります。
生活にメリハリがなかったり、あまりにも快適な環境で、運動不足や過食、過飲になると、交感神経の興奮が起きず、心身共に活力が湧いてきません。
いずれにしても、副交感神経過剰な状態では、アセチルコリンの作用による血流増加、炎症、うっ血(による低体温または体温調整不良)排泄、分泌の亢進や、知覚神経過敏、リンパ球の過剰活性によるアレルギー疾患、虚脱感、過眠、過食、うつ、無気力、倦怠感など様々な症状が生じます。
自律神経の乱れを整え、適切なバランスに整えるためには、生活を見直し、ストレスとなっている原因を探し出して心身に掛っている負荷を取り除くことが大切です。
心と身体の過剰な緊張を緩めて休息させ、身体を適度に活性化させること。
自律神経の働きを整えて自然治癒力が十分に働けるようにすれば、健康を取り戻すことができます。