女性の身体の最大の特徴は、「自分の体内で子供を宿し、産む」という機能を持っていることです。女性のこころとからだの健康は、この機能によってかなり影響を受けており、人生が展開していきます。
男性の骨盤と、女性の骨盤とは、機能や動きが全く異なります。
そのため、男性とは違った調整、アプローチが必要となります。
女性の身体の特徴と、骨盤の調整について順に見ていきたいと思います
男性の生殖器は、身体の外に出ているのに、女性の生殖器である卵巣、子宮は骨盤の中に収まっています。
女性は、お母さんの子宮の中にいる時、すでに一生涯に必要な卵子(卵母細胞)を持ち、この世に生まれてきます。
卵巣の中には数百個の卵子(卵母細胞)が作られていて、出生後体内で極限まで卵子(卵母細胞)を温め、身体が成熟すると毎月一個ずつ排卵します。
一方男性は、精巣で精子を作ります。精子は一回の射精で億単位の精子を出すため、分裂が盛んに行われて数を沢山作る必要があります。
細胞は、基本的に一定温度低い方が分裂が盛んに行われやすくなります。
このため、男性がお母さんの子宮の中にいるときには、温かい環境の中にいるため、精子の分裂は始まっていません。
精子を分裂させるためには、冷えた環境が必要で、身体の外に生殖器があった方が男性は都合がいいわけです。
このような構造から、男性と女性の違いが見えてきます。
筋肉量が多く、熱を作りやすい男性は、精子の分裂を盛んにするためにも身体を冷したがります。
一方女性は、体内で卵子(卵母細胞)を温めて、じっくりと成熟させる必要があります。冷えに敏感な女性が多いのは、筋肉量が少ないということのほかに、生物として卵子を守る必要があるからだと思われます。
ですから、女性にとって冷えは大敵です。
女性の健康は、「温める」ことが何より大事になっています。
ところが、近年女性を取り囲む環境は、冷え(低体温)を招きやすい要因が多くなってきました。
職場や家庭、外出先で冷房が効きすぎていることが多く、女性には冷え過ぎます。その上女性の方が薄着です。
温暖化で外気温が上がると、冷たいものを飲む機会も増えるでしょう。加えてストレスは交感神経を過剰に働かせて血管を収縮させます。その結果血流障害(虚血)が生じます。
デスクワークも昔に比べると、パソコンに向かっていることが多くなり、運動不足になりがちな上、目や頭の使い過ぎにより、頭に血流が集中してきます。それにより「のぼせ」が生じると、身体の末梢や骨盤内が虚血となり、血液循環が悪くなります。
さらにストレスや頭の使い過ぎは、甘いものを取りたくなります。
糖分は素早くエネルギー補給ができますが、取りすぎが習慣になると、高血糖になります。高血糖になると、余った糖が血液中の赤血球にくっつき、糖化ヘモグロビンとなり、赤血球どうしがくっついてしまいます。
そうすると、全身の細胞に酸素を届けずらくなり、低酸素、低体温になり「冷え」ることになります。
さらに、最近ではあまり暑い時期でない時にも、冷たいものを飲む方を見かけるようになりました。頭がのぼせると、身体を冷やしたくなります。しかし、頭ののぼせはあまりとれないばかりか、胃腸を冷やすことになります。身体の深部が冷え、そこに運動不足が加わると、身体自らの体温調整機能が働かなくなっていきます。
そしてますます熱を放散できなくなり、冷房や冷たいものを取らないと身体を冷やせなくなるという悪循環になります。
こうして様々な要因によって、女性の身体は冷えやすくなっています。
婦人科系疾患をはじめ、こころと身体に不調のある方は、例外なく身体が冷えています。
卵巣、子宮の働きを高めるために骨盤の調整を行いますが、冷えは骨盤内の血流にダイレクトに影響します。
骨盤は、腰椎の下に連なって逆三角形をした仙骨と、左右の寛骨からなっています。寛骨は恥骨、腸骨、坐骨という3つの部分から成っています。骨盤は前の恥骨結合と、後ろの仙腸関節を支点にして常に流動的に動いています。
骨盤の動きには、前後、左右回旋、開閉があります。
男性の骨盤にも当然動きがありますが、女性にとって最も大きな特徴は、「開閉」が生理の度に起こることと、妊娠出産ではさらにダイナミックに動くことです。
また、更年期から閉経を経て骨盤の状態が変化し、その後開閉は安定した状態になります。
男性の骨盤は、前後、左右回旋の動きのほか、呼吸や精神的な影響により多少の開閉もありますが、女性の動きに比べればごく少ないものです。
むしろ、男性の骨盤は開かないことの方が大事になります。
一方で女性は骨盤の開閉があった方が、健康を保てます。
よく女性はプロポーションを気にして、やせるために骨盤を締めた方がいいと、骨盤矯正を希望する方もいらっしゃいますが、女性の骨盤は、締まったり、広がったりと、開閉が柔軟に行われることが健康状態に直結しますので、無理やり引締めようとしないほうが身体にとって自然です。
骨盤の開閉は、生理、妊娠、出産、気温や季節、呼吸、精神活動の集中度、感情によって動きます。
骨盤の開閉がスムーズにいかないことは、婦人科系の疾患を生じるだけでなく、女性のこころと身体全体の機能に大きく影響を与えます。
ですから、女性の全身に生じる様々な不調を解消するためには、まず骨盤の調整が何より必要となります。
骨盤が歪んでいるとは、そもそもどういう状態になっていることなのでしょうか?
よく一般的に骨盤調整では、足の長さが違う、とか左右の高さが違うと見立てられて、正しい位置に矯正しようとされます。
確かに診察台に寝て頂いて、静止した状態で診ると、そのような違いが見受けられます。
しかし、今まで見てきたように、骨盤は流動的で、固定した正しい位置にずっとあることはありません。手足を動かすときのような、大きな動きではないものの、骨盤には動きがあります。
特に女性の場合は開閉が大きい、というのが特徴です。
骨盤が閉じる(締まる)時は、心身が緊張状態にあるときや、生理の後です。
骨盤は開く(緩む)時は、心身がリラックスしている時や、生理のだいたい3日前~生理4日ぐらいです。
このように、女性の骨盤の開閉は、こころと身体の状態と、月経周期によって動いています。
この骨盤の弛緩(開く)と収縮(閉じる)がスムーズにいかないときに骨盤が歪みます。
こころと身体が緊張状態にあると、骨盤は強く閉じます。
生理の3日前あたりから、出血するために骨盤が開いて(緩んで)きます。(生理直前に最も閉じる方もいらっしゃいます)
この時、骨盤の緊張が強いと上手く開く(緩む)ことができません。
骨盤はどんな方でも多少左右で緊張度合いが異なります。骨盤の緊張が強い状態の人が、生理で緩まなければならない時、緩みやすい方から身体は何とか緩もうとします。(通常右側の方が緩みやすいです)すると、左右差が顕著になり、骨盤がねじれます。
その他にも季節の変わり目、例えば冬から春になり、温かくなると、冬の間体温を骨盤内に温存するために締まっていた骨盤が、緩んできます。
この時にも、骨盤の緊張が強い方は左右差が大きく生じて骨盤がねじれます。
また、強いストレスから解放され、ほっと気が緩んだ時にも同じように骨盤がねじれます。
この骨盤の緊張状態(閉じている)→弛緩(広がる)の過程がスムーズにいかずにねじれる状態が「骨盤の歪み」として捉えられています。
さらに、精神的、身体的に苦痛を避けたい時にも、反射で骨盤が歪みます。
女性の骨盤の歪みは、単に骨格が歪んでいる、という単純なものではありません。
骨盤は単に「骨」としてあるのではなく、女性の生命力、命の働きそのものです。
いずれにしても、緊張してつっかえている所を緩めて、骨盤がスムーズに緩んで開閉ができるように、施術では骨盤の調整をしていきますが、それは同時に女性本来の生命力を取り戻すことでもあるのです。